本記事は苫小牧研究林の植竹研究室長が自ら執筆した冊子IBURI DOT SITE.記事のリライト版です。全6章からなる研究林の今を伝えます。
〜第2章〜
火山、森、水編
苫小牧幌内川の全て
北海道苫小牧市郊外に、私たち北海道大学が管理する森がある。バードウォッチングで遠路遥々訪れる方がいれば、苫小牧市民でも存在を知らなかったり。この森に癒されながら、探究を深め、地球の未来を考える。
明るい森
赤タイルの庁舎で入林許可証を提出すると、樹木園よりもさらに先に入ることができる。ゆるやかに蛇行する幌内川に沿って林道を奥に進んでいくと、ミズナラ、カエデ類を中心とした落葉広葉樹の二次林が広がる。この森の雰囲気は、一言で表すと『やさしく明るい森』。初夏には若い葉から溢れる光がやさしく森全体を照らし、暗さを全く感じさせない。樹の種類や林床(地面の近く)の植生が少ないためだが、川底が白い石に覆われていて不思議に明るい幌内川の影響も大きいだろう。
樽前山の噴火
川底の白い石を拾い上げてみると、スカスカとしていて大きさの割には軽いことに気がつく。これらは全て15キロメートル北西にそびえる樽前山から飛んできた軽石だ。樽前山は活火山で、過去に何度も大きな噴火を引き起こしており、今なお溶岩ドームからは噴煙が出続けている。近年で最も大きかった噴火は、江戸時代の1667年に発生。研究林は厚さ2mを越す火山噴出物(軽石)で埋め尽くされ、森は壊滅的なダメージを受けたと想像される。現在ではその上に土壌ができて見えないが、研究林を含む樽前山山麓の大部分がこの軽石で厚く覆われており、大きな影響を与えている。
源流は森の中
幌内川の源は研究林の中にある。林道をさらに5kmほど遡っていくと、先ほどまで流れていた川の流れは突然姿を消す。川の始まりを探しに沢筋の地形に入ると、突然軽石の層から水が勢いよく湧き出している場所に出会う。ここが幌内川の源流だ。この湧き水が研究林を縦断し市街をながれ、フェリーターミナルの横で海へと流れる。森林の重要な機能に、水の涵養(蓄えること)と浄化がある。森林土壌はスポンジのように機能して、降った雨水をゆっくりと地面に染み込ませて、長い年月をかけてゆっくりと吐き出す。そのおかげで雨が降らない時期があっても、水は渾々と湧き続けるのだ。
森の水は街の水
その湧き水はとても澄んでいる。雨の中に含まれる不純物を土壌が濾過することで、綺麗な水となるからだ。実は、苫小牧市の皆さんは、この水を飲んで生活している。幌内川からは苫小牧市水道局が水を取水しており、かつては苫小牧市唯一の水源であった。まさにこの森の貯水、浄水機能により生まれた水は、街の水となって私たちの生活を支えているのだ。ちなみにこの水は苫小牧市のキャラクター『とまチョップ』の名前がついた『とまチョップ水』として市内各地で購入することもできるので、ぜひ試していただきたい。
360VR 幌内川源流
続く~
植竹 淳准教授 Jun Uetake
研究テーマ
微生物群集による物質循環と地球環境変動
キーワード
微生物生態学・環境DNA・地球科学・環境変動・バイオエアロゾル・氷河・氷晶核形成
著書
雪と氷の世界を旅して: 氷河の微生物から環境変動を探る (フィールドの生物学)
メッセージ
目には見えない微生物は土壌や河川はもちろんのこと、空気や積雪といった一見生き物のいなそうな環境にも生息しています。野外でのフィールドワーク&ラボでの遺伝子実験や 化学分析を通じて、このような微生物群集がどのように分布し相互作用することで、環境中の物質循環に影響を与えているのかを明らかに していきます。またある種の微生物は存在するだけで地球環境を変化させる可能性があります。例えば、1:細胞が核となって雲の形成を 促進し、太陽光の放射バランスを変えている微生物、2:氷河の上で色素を生成し、温暖化による氷河の融解を促進させる微生物などがおり、地球科学や気象学といった様々な分野の研究者たちと共同して地球規模でのテーマにも取り組んでいます。