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「魚祭り」北海道胆振民の癒しと探究の森第4章|北海道大学苫小牧研究林

 本記事は苫小牧研究林の植竹研究室長が自ら執筆した冊子IBURI DOT SITE.記事のリライト版です。全6章からなる北海道大学苫小牧研究林の今を伝えます。



〜第4章〜

絶対的現場主義編

 北海道苫小牧市郊外に、私たち北海道大学が管理する森がある。バードウォッチングで遠路遥々訪れる方がいれば、苫小牧市民でも存在を知らなかったり。この森に癒されながら、探究を深め、地球の未来を考える。



1章  2章  3章  5章  6章

幌内川のサクラマス

幌内川には、サクラマスをはじめさまざまな魚が生息している。サクラマスは日本の多くのサケ科魚類と同じく、生まれた川を降って(降海)、海を数年回遊して大型化し、産卵のために生まれ育った川に戻ってくる。サクラマスの中には、海にあえて降らないものもおり(ヤマメと呼ばれる)、一生を淡水の川で過ごす。生まれた時の姿は同じなのに、海に降るのか否かで、全く別の形になるから不思議だ。それぞれの魚はどのように川で過ごしているのだろうか。その疑問の答えをさがしているのが、岸田准教授だ。

魚を全捕獲

岸田准教授の研究アプローチは大胆だ。幌内川にいる全ての魚を捕獲し、*1サクラマスにはピットタグと呼ばれる小型の電子標識を入れて、その行動を日々追跡している。追跡している個体数はなんと3000匹。一年中観察をつづけることにより、サクラマスの川での行動を知るのだ。タグ付け作業は年に2回、学生と職員総出で、1週間かけて行われる。範囲は、幌内川の取水口から湧水地までの5.3km。電気ショッカー(写真1の白い棒)の電気刺激で、魚を一時的にしびれさせて、1匹づつピットタグを入れる。作業は捕獲作業と一緒に移動するトラックの荷台上に作った小屋で、流れ作業で行われる。その規模と、まるで神輿のような作業小屋の雰囲気から、私たちはこの調査のことを『魚祭り』と呼ぶ。


*1:サクラマス(ヤマメ)、アメマス(イワナ)、ニジマス、ブラウントラウトを捕獲、魚体内にICピットタグを挿入後放流して、一年中観察追跡調査を行なっている。


海に降る魚、降らない魚

岸田准教授と共にサクラマスの研究に取り組んでいるのは、大学院生の二村くんと森山さん。彼らは、検出器をかついで毎日川へと出かけサクラマスの動きを追いかけている。それに加えて川には6箇所にアンテナがあり、魚の動きを常にモニタリングしている。これにより、川での移動や降海のタイミングを知ることができる。その結果、春に海に降ったサクラマスのうち、前年の秋に小さかった個体ほど、冬のあいだによく成長していることがわかった。つまり冬になる前に『次の春には海に降るぞ』と決めた魚は、冬の間せっせと餌を食べて大きくなってから危険な海に旅立っていくのだ。


寝ぼけた魚

大きくなったサクラマスには降海の前にもすり抜けなければならない敵がいる。下流で待ち構える魚食性の外来魚、ブラウントラウトだ。電気ショッカーで幌内川の下流部を調査すると、サクラマスをたくさん食べたのか、よく肥えたブラウントラウトが頻繁に捕獲される。この凶悪な捕食者は常に食べる気満々かと思いきや、寝ぼけてボーッとしていることがあるということが、大学院生の古澤くん(生物圏科学専攻、小泉研所属)の研究からわかってきた。彼は一年を通して幌内川を潜水しながら、川の中で魚がどう行動するかを自分の目で観察している。苫小牧研究林で真冬に川に潜っている人がいたとしても変質者ではない。それは生態系の食う食われるのドラマを研究する生態学者なのだ。


岸田研究室では魚の研究以外にも北海道産の両生類を研究することで、食う食われるの関係などを研究している。


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1章  2章  3章  5章  6章

続く~




バックカントリースキーを楽しむ植竹淳
バックカントリースキーを楽しむ植竹淳

植竹 淳准教授 Jun Uetake


研究テーマ

微生物群集による物質循環と地球環境変動


キーワード

微生物生態学・環境DNA・地球科学・環境変動・バイオエアロゾル・氷河・氷晶核形成


著書

雪と氷の世界を旅して: 氷河の微生物から環境変動を探る (フィールドの生物学)

メッセージ

目には見えない微生物は土壌や河川はもちろんのこと、空気や積雪といった一見生き物のいなそうな環境にも生息しています。野外でのフィールドワーク&ラボでの遺伝子実験や 化学分析を通じて、このような微生物群集がどのように分布し相互作用することで、環境中の物質循環に影響を与えているのかを明らかに していきます。またある種の微生物は存在するだけで地球環境を変化させる可能性があります。例えば、1:細胞が核となって雲の形成を 促進し、太陽光の放射バランスを変えている微生物、2:氷河の上で色素を生成し、温暖化による氷河の融解を促進させる微生物などがおり、地球科学や気象学といった様々な分野の研究者たちと共同して地球規模でのテーマにも取り組んでいます。

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